吉田ヘレネと金曜日の天使

* ep02 * こうして魔女は現れた









よる、8時ごろ。

あたしの部屋で、あたしと、イエティによる
作戦会議は続く。

あたしは、まだ眠気は無かったので、
パジャマには着替えず、いつも通りの
ワイシャツに、ストライプのネクタイ、
黄色のベスト、という普段着。

おっきなリボンをつけて、真っ赤なドレスを着て
ヒールを履き、全身を真っ赤に仕立てるという
エキゾチックな(?)格好をした、天使イエティが、

"なぜ、天使である私が地上に降り立ったのか?"

を、あたしにも分かるよう、親切に教えてくれる。



ていうか…
イエティの格好、すごくかあいい!
イエティ、まぢ天使なんだけど!(≧Д≦)



(あ、さっきイエティが、疲れきった表情で
「名前は好きなように呼べ」と言ってたので、
お言葉に甘えさせてもらうことにした。
イエティ、やさしい☆)



地上に現れた、謎の魔女・リリス。

あたしは、古代ソロモンの王女シェバの生まれ変わりなので、
リリスが現れた時、あたしが、古代の王・スパルタの
生まれ変わりである高村を守らなくてはいけない。

そのかわり、毎週金曜日、イエティが、
あたしに、必ずひとつだけ、願い事を叶えてくれるという。

さすが天使。さすが可愛いイエティ。サービスいいね!




「…ところで、吉田ヘレネよ。
なんで…ツイスターゲームなのだ?」




「えっと…えっと、まずね…

どうやら高村は、あたしの事が好きらしいなの!」




「なるほど。
それで、お前も、高村の事が好きだから、ってことか。」




「いいや!ちがうよイエティ!

高 村 が 、あたしの事が好きなの!

あたしの気持ちは関係ないの!」




「どういう根拠があって、そう思うんだ?」




「コンキョとか、そういうのじゃなくて、
とにかく高村は、あたしの事が好きなの。

だから、高村から、あたしに対して、
告白させてあげたいの。」




「………

……………

…………………

……………えっと………

……………

…………………お前、"思い込みが激しい"って、
よく、周りから言われないか?」




「ほえ?」




「…まぁ、いいや。

それで、お前のことを好きな高村カズヤと、
いま、お前が叫んだ

"高村カズヤとツイスターゲームがしたい"

という願いに、どのような関係があるんだ?」




「高村は、あたしに告白したいのに、なかなか出来ない。

なぜかっていうと、それは…あたしと高村との距離感!

そう!距離感にモンダイがあると思うの!




もっと距離感が近くなれば…
あたしに、ホントの気持ちを話せる!
告白だって出来る!距離感!距離感が大事!

距離感が近くなる!距離感!密着!
あたしが!高村と!密着!そう!密着!
きゅふ!きゅふふひひひひひぃひぃ!」




「…(笑い方がキモくて正視できない)」




「あたしは高村の幼なじみで、昔から
高村のことを知ってるから、高村のことが心配!

あたしに告白して、ちゃんとスッキリして、
すがすがしい学生生活を送って欲しい!
そう!これこそが…あたしの望み!」




「…私は頭が痛くなってきたぞ…」




「だいじょぶイエティ?バファリンでも飲む?」




「いや…大丈夫だ…

わかった、わかったわかった、ツイスターゲームな…

叶えてやるよ…その願い…」




「わぁ☆ありがとー!イエティ!
イエティって、いいひとだねっ!」




「…それじゃ帰るぞ…来週の金曜日な…」




なぜか沈痛な面持ちで帰っていくイエティを、
あたしは、いろんなことが、なんだかあたしに都合よく
うまくいきそうで、正直うれしかったので、イエティへの
感謝の気持ちも込めて、あたしが今できるサイコーの笑顔で
イエティを見送った。




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「吉田は、石川県・白山の堅豆腐を知ってるか?」

「え、い、いや、知らないけど…」

白山の堅豆腐は、普通の豆腐と違ってだな。
まず、通常より多量の大豆を使い、重しをして
水分を抜いて仕上げる。
そして水に漬けてすりつぶす大豆は…」

「ねぇ、もう豆腐の話はいいよぉー!」

「北陸の三名山の一つ、白山は豪雪地帯だから、
通常の輸送手段では豆腐を運ぶことが出来ない。
だから、製法を工夫して、絶対に崩れない
豆腐を作ることで、どこにでも持ち運び
出来るようにした。そう、これこそが、
生活の為の知恵、工夫であり…」

「っていうか聞いてないしー…

ねぇ高村?
堅豆腐より、もっと大事な話があるんじゃないの?」

「ん?なんだ?
山口県祝島の石豆腐の話か?」

「豆腐じゃなくてぇー!
た、たとえば…あ、あたしに…////////」

「あ、ついたついた!ここだよ!」

「…高村のバカ…」

「なんか言ったか?」

「…なんにも言ってないし…」

「そうか。それじゃ入るか。」




学校の帰り道。

緑色のセーターを着て、あたしと同じく
ストライプのネクタイを着けた高村。
(同じストライプだけど、高村のネクタイの色は
あたしよりもシックな色だ。)

すこし曇りがかった空。
いつも見慣れた、急な下り坂の下校ルートを、
お互いに

"う〜さみいさみい"

と言いながら歩いていく。
(このぶんだと、そろそろ雪でも降るんじゃないか?)



商店街に差し掛かったとき、高村が目当てに
していた豆腐屋が、視界に入る。




そう。
今日は、高村と一緒に、豆腐を買いに行く
約束をしていた日なのだ!




…へんっ。
豆腐なんか眺めて、なにが楽しいのやら。



高村は、無類の豆腐好きで、口を開けば
豆腐の話しかしない。




まったく。
このままじゃ高村、あたしに告白する
チャンスを逃してしまうっていうのに。

そのあたり、わかってるのかな?




とりあえず、高村と一緒に、豆腐屋の
店内に入ることにする。




「おー、いらっしゃい、高村くん!」

店先から、店主のおばちゃん(中森さん)が出てくる。

「ああ、中森さん。いつもお世話になってます。」

「あらあら、高村くんは、また、ヘレネちゃんと一緒かい?
いやぁー、高村くんも、スミに置けないねぇ!」



相好を崩して、店主のおばちゃん(中森さん)が、カカカと笑う。

中森さんの言葉に対し、あたしは、顔を真っ赤にして否定する。

「いいいいいいやちがいます中森さん!
たたた高村とは、別に、付き合ってるとか、そういう─」





「吉田とは、そんなんじゃないです。」




「「え…?」」




「別に、吉田とは、そういう関係じゃないです。」




ねぇ高村。

なんで、そんなに全力で否定するの?




「………

……………

…………………

……………えっと………

……………

…………………

…高村のバカぁああぁぁぁぁあぁああぁぁぁああ!!!」





「ああっ!ヘレネ!走ってどこへ行くんだ!」

「追いかけな、高村くん!」

「でも中森さん!豆腐が…」

「うるせぇ!エビフライぶつけんぞ!」

「は、はい!すいません!」




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商店街を駆け回るようにして逃げたあたしを、
下校する学生の沢山いる交差点で、捕まえた高村。




「そ、その…吉田…ごめんな…」

「……………ばか…」

「えっと…ホントに…ごめん…」

「……………ばか…」

「吉田、ごめん…ほんと…ごめん…」

「……………ばか…」

「なぁ吉田…なんで泣いてるんだよ…」

「…高村が、なんであたしが泣いてるか、
分かってないから、泣いてるの…

…高村が、なんであたしに謝ってるか、
分かってないから、泣いてるの…」

「…」

「ねぇ高村…」




PPP… PPP…




「あ、ごめん吉田。
ちょっと母ちゃんから電話きた。




もしもしー?母ちゃん?

うん、うんうん。
あー、いま?ヘレネと話してた。

え?晩ごはん?
よかったらヘレネも一緒に?

ちょ、ちょっと待ってて?




なあヘレネ。
いま、お前んち、親が出張で居ないんだよな?

これから俺の家族、ジョナサン行くみたいなんだけど、
おまえも来る?」




昨夜のイエグディエルの言葉が、脳裏をよぎる。




『今回の指令は
"来週の金曜日の夜まで、高村を
魔女リリスに近づけないよう、見張ること"』




どくん。




間違いなく魔女リリスは、明日…
高村の元にやってくる!




心臓が、高鳴る、音がした。




「吉田…?」





今日は木曜日。
明日。高村が。リリスに。




「吉田?どうした?吉田?」




「…て…」

「え?」

「いいからちょっと来て!」




そう言うと、あたしは、高村の手を強く握り、
高村を引っ張るくらいの勢いで、高村を
あたしの家まで向かって走る。




「お、おいちょっと!吉田!どうしたんだ吉田!
俺は家族とジョナサンに行かなくちゃ…」

「いいから黙って付いてきて!」




走る、走る、走る。ひたすら走る。

このあたりの道は、あたしの庭みたいなもんだ。
GPS搭載カーナビにも負けないくらいの精度で、
最短距離で、あたしは、あたしの家へと辿り着く。




「─っ着いたぁー!」

「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…

吉田…どういうことなんだ…説明してくれ…」

「説明は後で!いいから、家の中に入って!」




言うなり、私は高村を、押し込めるようにして
家に入れて、私も、その後に続く。




「高村はテキトーにくつろいでていいから、
明日の朝まで、あたしの家にいなさい!

…ご、ごはんは…
あたしが作ってあげるから!//////」




「…ったく…わけわかんねぇよ…

まぁ、お前がそう言うなら、仕方ねぇ。

今から親に、メシは吉田んちで食う、って
連絡するわー。
あー、あと吉田んちで泊まるっても言っとく。」




やったぁぁぁぁあああああ!!!




Exactry!!!
高村と、ごはん!高村と、お泊り!
高村と、ひ と つ 屋 根 の 下 !




…ごほん。




あたしは、高村を守らなくてはいけない。

リリスとかいう女の、魔の手から。




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晩ごはんは、秋刀魚のバター焼き、
しじみの味噌汁とシーザーサラダ。

"豆腐が欲しい"
だの
"冷奴は無いのか"
だの、うるさい高村の口に、焼きたて秋刀魚を
捻じ込むようにして食べさせる。




人の家の勝手が分からなくて、少し緊張してて、
おハシを何度も落としたりする高村が面白かった。
あーもったいない。ムービー撮っておけば良かった。




その夜。あたしの部屋で、ふたり。
あたしはベッド、高村はソファで寝た。

あたしが
「夜更かししよー。ヒマだからなんか話してよー」
と言うたびに、高村が豆腐の話をするので、
そのたびにソファに蹴りを入れてたら、高村は
「ごめん…」
と言ったきり、何も話さなくなってしまった。




ちぇっ、つまんないの。
アドリブのきかない男子は、モテないぞ、高村。




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翌朝。




ピンポーン




「宅急便だ…」

「どうする?オレが出る?」

「いや、私が出る。高村は寝てていいよ。」




とても細長い荷物だ。ダンボールにはamazonと書いてある。
何が届いたんだろう?お父さんの新しいゴルフのクラブかな?




「中身って何ですかー?」

「あー、なんか、ゲームらしいですよー」




細長い荷物。ゲーム。
→ツイスターゲーム。




YES!
イエティ、 グ ッ ジ ョ ブ !!!!!




ナイスタイミング!ベストタイミング!




宅急便のお兄さんがいるのも構わずに
小躍りしながらハシャいでいると…




「3000円です。」




「ほえ?」




「あ、3000円になります。
代金引換なので、手数料と、商品の代金ですねー。」




「………

……………

…………………

……………えっと………

……………

…………………

…イエティぃいぃぃいぃ!!!
あんのクソアマァああぁぁあ!!!」




半泣きで玄関を駆け上り、SWIMMERのサイフから
なけなしの3000円を取り出し、宅急便のお兄さんに払う。




何かを得るためには、何かを失わなくてはいけない。




あたしは。
願いの代償に、今月のおこづかいを、全て、全て失った。




って、いうかさ…

amazon?ネットショッピング?私が代金を払う?








魔 法 関 係 ね ぇ だ ろ ー が !!!!!!








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「ふふふ…
泣きながら男のコとツイスターゲームする子、
初めて見たわ。なかなか面白そうな子ね。」




A red sky in the morning is
the shepherd's warning.




「…まぁ…俎上の魚、ってトコかしら?」




夜の魔女は呟く。
不敵な笑みを浮かべて。




不気味な。赤褐色。今晩の。月の色。




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宅急便のお兄さんが帰った後、不意の来客があった。

突然現れた来客者は、戦慄して震えるあたしの前で、
ただ、名乗った。




        "魔女リリス"と。




こうして魔女は現れた。




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