吉田ヘレネと金曜日の天使

* ep01 * 天使がキミに逢う理由










───高校生のお前に、天界の事情を、委細まで話しても伝わらんだろう。




───だから、かいつまんで、お前に教えてやろう。
   なぜ、私がここに来たのか。
   そして、いま、天界が、どうなっているのか。




「ほえ?私、中学2年生だよ?」

「んなっ…
き、貴様、そこのハンガーに掛かってるのは、高校の制服だろ!?
どこからどう見たって、お前は高校生しか見えないぞ!?」




「あー、うーん」



だめ。
この人(天使だっけ?)の言ってること、意味わかんない。




「あたしは、中学2年生だよ?」




「い、いや、えっと、だからさー…」




「あたしは、中学2年生だよ?」





「…そうか、触れてはいけないポイントだったか…
この小娘もいろいろあるんだな…ブツブツブツ…」





「さっきから何をブツブツ呟いてるの?」





「ああいや!
な、なんでもない気にするな、ただの独り言だ!」




「独り言ばっか言ってると、男子からキラわれるよー。
それで、続き。なんだっけ、テンカイのジジョーだっけ?」




「あ、ああそうだったな、うん。」




天界では、今、魔女軍と天使軍が、
まさに闘いを始めようとしている。




「…ぶっ!」




「な、なぜ笑うのだ!ここは笑うところではないぞ!」




「いや…どんな大仰な話が来るかと思ったら…
あんまりにも話の出だしがシンプルだから
つい…ぷぷっw

キミの名前、イエティだっけ?
イエティの話、おもしろいね!」




「イエティじゃなくてイェグディエルだ!

てめー!名前まちがえんな!ていうか…

話を進めさせてくれぇぇぇぇぇえええ!!!」




彼女の話によると、こういうことだった。




天界では、魔女軍と天使軍が一触ソクハツ状態で、
イエティは天使なので、天使軍の使いとして
私のところへ来た(らしい。)



私の前世は、古代ソロモンの王女シェバ。

古代の王・スパルタの生まれ変わりである
高村を守護する役割がある(らしい。)



もし、高村が天界に連れ去られたら。




今までソロモン王の守護を受けて
王を守らんと戦っていた天使軍は、
戦う大義を失って、あっけなく
魔女軍に負けてしまう(らしい…)




「なんか…
ちょー重要じゃん高村!
ねぇ!?なんでそんな重要なことを
早く言ってくれなかったのイエティ!?」




「だからイエティじゃなくてイエグディエルだ!

魔女リリス。
彼奴が、天界と地上界に結界を張って、
天使が地上界へ使いを出すことを
妨げていた。

昨日、その結界を解く術式を我々天使軍が編み出し、
金曜日の天使である私が、毎週の金曜日、そなたの許へ
降りてくることになったのだ。」




「へぇ〜。魔女リリスって、どんな人なの?」




あたしがそう質問すると、今まで流暢に
いろんなことを話していたイエティが
急に口を閉ざし、考え込み始めた。




「ねぇ、どうしたの?」



「…彼奴は…夜を司る魔女…

私たち天使たちは、願いを叶える。
彼奴ら魔女たちは、呪いを与える。

…済まぬ…今は、まだ、ここまでしか話せぬ…」



「そっか…わかったよイエティ…」



「イエティじゃなくてイエグディエルだっつってんだろ!!
さらっと名前まちがえてんじゃねぇぇぇぇええ!!!
相手に失礼だろぉぉぉがぁぁぁああああぁ!!!」




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その後も、イエティによる魔女軍と天使軍の話が続き、
寝ぼけ眼をコスりながら、怪物くんボールペンと
トンボノートを両手に、あたしはイエティの話を、
(まるでシャカイの授業の時みたく)書き留めていく。

そう、イエティの話を。イエティの尽きない話を。



「おい。
いま、お前が回想した時、あたしの名前まちがえてなかったか?」




「もぉ〜、ヒトの心の中にまでツッコミ入れないでよぉっ><」




「お前が、さりげなく私の名前を間違えるからだろーが!」




「そんなことないよイエティ♪」




「だぁーかぁーらぁー!
イエティじゃなくてイェグディエルだって
いってんだっろっつってんだろってーの!

認めるけどさー!覚えにくいのは認めるけどさー!
どうなのそれ!?私なんか悪いことした!?」




「泣かないでイエティ。誰にだって間違いはあるよ。」




「あ"ー!あ"ーあ"ーあ"ーあ"ーあ"ー!
なんか私が間違えてるみたいな言われ方してあ"ー!あ"ー!」




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「…ふぅ…私の話は、以上だ。」




ぱたん。
ノートを閉じて、ボールペンを筆箱にしまうと、
あたしは、イエグディエルに尋ねる。




「それで、今日から毎週の金曜日、
あなたが、あたしに指令を与える。

今回の指令は
"来週の金曜日の夜まで、高村を
リリスに近づけないよう、見張ること"



あたしがそれをジッコウするかわりに、
毎回、あたしの願いをひとつだけ
叶えてくれる、っていうわけね。」




「そうだ。

お前が、これから言わんとする願いは、
来週の金曜日、必ず私が叶えてやろう。

どうだ?なにか願い事はあるか?
金銀財宝だとか、美男美女になりたいとか。
どんな願い事でも叶えてやろう。」




「んっとね…あのね…

てへっ…これ言うのはハズかしいなぁ…/////」




「どうした?言ってみろ?」




「えっと、えと…

や、やっぱり、言えないかなぁ…」



「なんだなんだ?
言いにくいなら、私の耳元で囁くが良い。」




あたしは、イエグディエルの申し出に甘え、
彼女の耳に、私の秘めたる願いを、そっと囁く。




そう。そっと。




「イエティーーー!!!!!!!!!

あたしはぁー!!!!!!!
高村とーーー!!!!!!!!!

ツ イ ス タ ー ゲ ー ム

     が

  し た い ぞ !!!!」




「うるっせぇぇぇぇぇええええ!!!!!!
おい吉田ぁ!吉田てめー!わざとやってんだろー!!!!!
今のさ!耳を近づける必要、ぜんっぜん無かったよね!!?
そっと囁くって言っときながら叫んでんじゃねーか!!!
鼓膜がー!鼓膜がキーンとするぞーチキショォォオ!!!

あと…
名 前 ま ち が え ん な ぁ ぁ !!!!!!」




"自立とは表現であり、表現とは絶叫である。"




誰のコトバだったっけ?
まぁ、いいや。




ともかく。




吉田ヘレネ。
あたしという存在は、この瞬間、本当に"誕生した"のだ。




こうして、あたしと、天使イエグディエルの、
不思議な関係が始まった。





あたしの願いは、来週の金曜日、聞き届けられる。




「…ところで、吉田ヘレネよ。
なんで…ツイスターゲームなのだ?」




それは、また、次回のお話。





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