吉田ヘレネと金曜日の天使

* prologue * そして少女は出逢った









高村は、あたしのことが好きだ。




気づいたのは、1学期が終わる頃の事だった。




高村カズヤ。
シャープで、端正の整った顔立ちをした、
私の右斜め前に座る、すこし不思議な男子。




高村の声。高村の吐息。
タイクツな化学の授業の途中で放たれる、
「ん"ん"ぁ"〜」という、高村の欠伸。




それらの、ひとつひとつの、高村の仕草に、
少しだけ、変化が訪れた。




「アイツは、あたしの事を意識している。」




それは、あたしにしか分からない変化。
そう、それに気づいているのは、あたしだけ。




あたしが高村の事を授業中に見つめていると、
少し不思議そうに、あたしに見返してきて、
「どうした?」って顔をしてくる。




へんっ、白々しい。
気づいてるんだからね。




あたしの事が好きなのを悟られまいと、
どれだけ、あなたが取り繕ったって、
あたしには、分かってるんだ。




あたしは、高村の事が心配だ。




あたしのことを好きになってしまった
高村が、いつか、あたしに告白してきたら。

あたしの返答次第では、もしかしたら、
高村を傷つけてしまうかもしれない。

もし、高村があたしに告白してきたら、
あたしは、なんて答えればいいんだろう?




もし、高村が────




「…でさー、木綿豆腐っていうのは…

って、おい、吉田、聞いてるか吉田ー?」




「…はっ、はひぃ!?
え、えっと、ききき聞いてるよ!?」

「ウソこけw
いまお前、ボーッとしてたろ?」

「あ、ああうん、ごめんね高村…」

「まぁいいや。
そろそろ期末も近いしさ、ホント、
学年5位のお前だけが頼りだよ。
いつもありがとな、吉田。」




お前だけが頼り。いつもありがと。




おおおお前だけがお前だけがお前だけが
高村があたしを頼って頼って頼り頼り頼り




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「───っていうことがあったんだよー♪

バカだよねー、高村って。
頼りになる、とか、そんな風に言わないで、
あたしが好きだから、一緒に勉強してる、
って、そう素直に言えばいいのにねー♪

ねぇ、デーヴィッド、すごいでしょぉー?
あたし、高村と明日も、お勉強会するんだよー♪

ありがとね、デーヴィッド。
いつも、あたしのお話聞いてくれて、
いつも、あたしに優しくしてくれて…

…ホント、高村とは大違い!

高村は、つっけんどんで、
スカしてて、かっこつけてて…
…そ、そりゃ、まぁ…高村は…
か…かっこ悪くは無い…ケド…////////

…あーもー高村ぁー!
じれったいなぁー!
あたしに告白したいなら、早くしろー!

早く告白してくれないと、
あ、あたしは…あたしは…」




そういって、デーヴィッド(熊)を
ぎゅううっ、っと抱きしめる。




デーヴィッドは、あたしが
小2の頃に、ママから貰った
くまさんのぬいぐるみ。




デーヴィッド(熊)だけは、
いつだって、あたしの話
きいてくれるんだ!




そう。
デーヴィッド(熊)がいるから、あたしは、
いろんな色の夜を乗り越えられるんだ。




「…やれやれ、高校生にもなって、
お人形さんごっこか…」




いつの間にか、窓辺に、不思議な
(なんというか、エキゾチック?な)
格好をした女の子がいた。




「だ、誰!?
どこから入ってきたの!?
人を呼ぶわよ!?」




「私は、天使イェグディエル。
通称、"金曜日の天使"。

古代の王・スパルタの生まれ変わり、
高村カズヤを救う為にやってきた。」




「…は?」

なにそれ?意味わかんないんだけど?




「いや、表現に誤謬(ごびゅう)があったな。




吉田ヘレネよ。
私は、お前の手助けに来たのだ。

いつか訪れる、魔女リリスとの闘いの中で、
高村カズヤを救う、お前の事を、な。」




「え…?
そ、それは、どういう…?」




「まぁ、突然現れてきて、
いきなり天使だなんだと言われて、
信じられないのもムリは無い。
ちょっと、証拠を見せてやろう。」




デーヴィッド(熊)は、あたしが
雑に扱いすぎたせいで、左手と
右足の部分が破れていて、そこから
中身の綿(わた)が出ている。




その、左手の部分から糸が伸びて、
シュルシュルシュルシュルル…
と縫合されていくのだ!




あっという間に、デーヴィッド(熊)の
左手は、元通りになった。




「…どうだ小娘。
これでも、まだ信じぬか?」




星の雫が、今日も、放物線を描いて
地上へと降り注ぎ、波に沈んでいく。

輝きと諦念、孤独に満ち、混濁とした
夜の海の中、そう言って天使が微笑む。




くすんだ淡香色の満月が、妖しく、
彼女の横顔を映し出していた。




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