「あっ、みてみて高村!
グリズリーだ!あそこにグリズリーがいるよ!
あっ、あっちにも、あそこにも!
いっぱい、いっぱぁい、グリズリーがいるよぉおおぉ!
:*.;".*・;・^;・:\(*^▽^*)/:・;^・;・*.";.*: 」
グリズリーランド。
さいたまが誇る、日本有数のテーマパーク。
そのテーマパークの中心で、あたしは狂喜乱舞。
だって、そうなのだ。
グリズリーが。
あのグリズリーがいっぱい。
あれも、これも、それも、どれもこれも、
グリズリー。
グリズリー。
グリズリーだらけなのだ!
こう見えても私はグリズリーマニアで、
自室にはグリズリーのヌイグルミが
大小あわせて17個!
枕カバーや、スマホ(●ndroid端末)の
ストラップや待ち受けもグリズリー。
パープルグリズリーのブランケットも
持ってるし、もちろん、グリズリーの
ファンクラブだって加入している!
あたしが管理人をやっている
バイオレットグリズリーの
●acebookファンページには
世界中の、14万を超える
ファンが登録しているのだ!
(*>ω<*)
「吉田…」
ああグリズリーかわいいよおグリズリー
グリズリーたんペロペロちゅっちゅ
∵ゞ(≧ε≦o)
「吉田…吉田…」
あああああグリズリーかわいすぎて
鼻血でてきたああかああいいいグリズリー
かあいかあいかあああああいいいよおお
。゜゜(´□`。)°゜。
「おい吉田、おい。」
頭のてっぺんからつま先まで、あたしが全身で
グリズリーを感じ、グリズリーに没頭していると
あたしと同年代の男子が、私に声をかけてきた。
誰だっけこいつ。あ、高村か。
あたしがグリズリイィィ!な状態の時、
(*この場合のグリズリイィィ!は感嘆詞)
あたしは、グリズリー以外の事に関心が無くなる。
「吉田。
遊園地に夢中になっているところ悪いんだが…
なんというか…さっきから雲行きが怪しいぞ…」
「ほえ?なにそれ?
比喩(ひゆ)的な用法で言ってるの?」
「いや、言葉通りの意味だ。
空を見てみろ。」
高村に言われて、私は、空を見上げる。
青と白の絵の具が溶けて混じった絵の具バケツを
美術室の床に、どばぁ!と、ぶちまけたみたいな
雲ひとつない快晴だった空が、まるで、
お天気カメラを早送りしているかのような
忙しなさで、灰色の雲の空に変わっていく。
これはおかしい。
だって、あまりに異常だ。
こんな風に、急速なスピードで変わる空を、
あたしは、いままでに見たことがない。
頭の中で、当たって欲しくない予想を立て、
その予想が当たる事に500円賭ける。
ねぇ、お願い…誰か、あたしの予想が
当たらない方に500円を賭けて。
この賭けはきっと、あたしの勝ちだ。
「くっくっく…
また会ったな…
吉田ヘレネと、高村カズヤよ…」
曇天の空から、耳を劈く様な声が聞こえてくる。
賭けは、あたしの勝ちで総取り。
つまり…あたしの予想通り…。
この空は、魔女リリスの仕業だった。
「ねぇ、リリス。
あとにしてくれない?
なにも、あたしがグリズリぃ↑時に
(*この場合のグリズリぃ↑は形容詞)
襲ってくる事は無いんじゃないかな?」
「くくく…
年端の行かぬ無知蒙昧で白面郎の貴様らが、
小癪な人間共の拵えた、襤褸の散逸し
愍然たる遊戯場を逍遥している事など、
余の忖度すべき事ではない…」
「ちょっとあいつなにいってんのかわかんない。
ねぇ高村、日本語に訳して。」
「魔女が
"てめーらガキが遊園地で遊んでるとか
わたし的には超どーでもいいー"、って言ってる。」
「〜〜〜−〜〜−〜〜〜〜〜〜−…
〜〜〜−〜−−〜〜−!」
「魔女が
"今回、私はそっちに行けないから、
代わりの奴を連れてきた"って言ってる。」
「〜〜−…
〜〜−〜!
〜〜〜!〜〜−〜〜〜〜〜−〜!
〜−!〜−!」
「魔女が
"今回てめーらを襲う魔女の名前は、
魔女サキュバス!
ははは!どうだー!参ったかー!
ばーかばーか!"って言ってる。」
「〜−!〜−!」
「"ばーかばーか!"って言ってる。」
「(´・д・`)…
ねぇ高村、いちおう聞くけど、高村の翻訳、
細かいニュアンスとかも合ってるよね…?」
「最善は尽くしているつもりだ。」
私達が置かれた状況よりも、高村の
言葉のせいで不安に苛まれている
あたしの元に、ひとりの魔女が降り立つ。
奴の名は、魔女サキュバス。
「…逃げろ。」
「え?」
「吉田は逃げろ。
ここは、俺が何とかする。」
そういって高村は、静かに黙想した後、
ひと呼吸おいて…
天を仰ぎながら、空に手をかざした。